呆然とあたしは戦場に立つ
全く知らない見たことも無い人間が
血にまみれて足元を埋め尽くしている
あたしにはそれを悲しいと思う感情がない
あったのかなかったのかわからない
そもそもあたしには 人の死というものが
悲しいことなんて感じたことが生まれてから一度もない
多分マザーが死んだら悲しい
生きてる意味がない
マザーは
「私は死なないわよ」と
笑って言ってくれたことがあるから
一度も疑ったことがない
じゃあ他には?
同じ0組の連中でさえ
死んだら悲しいって感じるのかもわからないんだけど
いつかはマザーが生き返らせてくれるんだろうから
心配はおろか
悲しいなんて考えたことすらない
じゃあ他は?
そのほかに あたしがいなくなって欲しくない人間
そんな奴が現れるのか?
自分の鎌から滴り落ちる紅い滴を眺めながら
そんなことを考えていた
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その日は例のプログラム演習から4日後
あたしには拒否権が無いから断りようがなかったが
ありがたいことにあれから一度も参加予定日がなかったため
通常の演習に参加することになっていた
教室でブリーフィングに来た隊長は
淡々と自分たちに与えられた使命を説明し
他の連中が息巻いて教室を出ようとしていたとき
「サイス、残れ」
と、一言だけ言われた
「ああ?」
この前みんなの前で赤っ恥かかされたこともあり
できるなら呼び止めて欲しくなんてなかったが
たまたまこちらを見たエースがうなづいたように見え
従うしかなくて教壇に近づいた
「・・・何」
超不機嫌オーラ全開で仁王立ちしたあたしに
自分が仏頂面していたからか、かける言葉がなかったのか
隊長はポケットから何か出して自分の目の前で
手のひらに乗せて見せてきた
「どうしても、先日の演習で指摘したような状況下に置かれたら
氷雪系魔法で足元を固めてから、自分の体勢を整えるといい
お前の魔力ならこれが使えるだろう」
と、装備するアクセサリのような指輪だった
あとから聞いたら特に珍しくもなかったけど
「・・・・・?なんであたしに?」
と、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしていると
「お前以外はその後の演習を終えてから
私が指摘した事項を復習していたからな
あの時上の空だったように見えたが?」
「・・・・・・」
正直、返す言葉がなかった
戦場では絶対に許されないことだ
敵前で呆けるなんて
何か言い返したかったけど
言葉がなかった
「私も、他の連中の前で多少無神経だったかもしれんが
お前が何にむきになろうと、ここは戦場だ
生還することも任務だ。」
そういって、あたしの手にそのアクセサリを握らせると
教室を出て行った
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