深い海に沈む俺のカラダ。
波に流され、バラバラになって。
必死に手を伸ばそうとしても、あそこには戻れない。
意識を保とうとすればする程、また濁った世界に引きずられそうになる。
だけど覚悟はしていたんだ。この世界に来た意味、俺が存在する訳。
千年の祈り子達の願いが生んだ希望が、俺。
「シン」が親父と判った時から感じていた運命、それを受け入れなければいけなかった。
『役割』を果たす事が生きていく意味…そう思うことにいつしか慣れていた。
皆と別れることも、寂しくないと思った。
だけど愛する女性(ひと)ができたんだ。
それだけでこの世界に留まらせる理由になった。
…でも結局運命には逆らえなかったんだ。
徐々に消えゆく俺の体。透けて、今にも溶けそうで。
だけど…。
だめだ…だめなんだ。
本当はこの世界に残りたい。
もう一度やり直したい、スピラに帰りたい。
この思いは嘘じゃない、運命とか、役目だとか、そんな事は関係なくて、 ユウナをこの腕に抱きしめたい…それだけなんだ。
「もっとアイツを好きになりたいんだ。もう泣かしたくないんだ。だから…戻りたい」
だけどエボン=ジュが存在しない限り俺のいる意味がない。オヤジもアーロンも幻獣達も、そして俺も。
『もうキミの役割は終わったんだよ』
『これがキミの物語だったんだ』
バハムートの祈り子は想像となり、頭の中で俺に語りかけていた。
「違う!俺の物語はまだ終わってはいない!走りたいんだ。もっと走って生きたいんだ」
精一杯の叫びは幻となって、泡のように消えた。
「……」
かろうじて保っていた意識は次第に薄くなって、心地の良い波と共に暖かい気持ちになった。
このまま波に流されればいいのだろうか。
このまま、何もかも忘れてしまえばいいのだろうか。
「…ユ……ナ…」
ユウナ…キミに会いたい。もう一度、奇跡をおこしたい。
だけど目の前に広がる視界は深い蒼色の底だけしか見えなかった。足を抱え込み、絶望の淵に流される。
やがて俺の足元から柔らかく、懐かしい感触が包み込んだ。
「か…あ……さん?」
ずっと忘れていたあの思い。子供の頃に母に抱き上げてもらった、あの優しさ。
その感覚が俺を何処かへさらおうと、手を伸ばす。
「かあさん……ここにいたんだ…」
突然、冷たく刺すような光が視界を遮った。
「!!」
穏やかな海の中は騒然となり、小さく輝く3つの幻が瞬時俺の周りを纏わりつき、それは力強く何かを語りかけていた。
『もうお前達の時代だ』
それは、アーロンが俺達に告げた最後の言葉だった。
『オレ様の息子がこんなところでくたばっちゃいけねえなぁ』
…え?!
『もう一度、走ってみせてくれないか』
…この声は…。
ああ…そうだ。
走りたい…。
もう一度、地に足をつけて走りたい…!!
俺はまだ終わっていないんだ。
『そうだ。希望に満ちた少年の夢よ…走り抜けてくれ!』
一つの幻が強く輝き、続くように二つの幻が俺の全身を包み込んだ。
ユウナ…!
すると、突然眩しい光が目に飛び込んできた。
「眩し…っ!」
刺すような光に耐えきれず、手で顔を覆った。
トンネルを抜けきって暗闇から急に明るい外へと飛び出したような感覚に捕われたかと思うと、いつの間にか水面に光が広がっていた。
頭はまだぼんやりとしているけど、何かが突然変わったのは判った。
目を細め、白く眩しい光の中をじっと凝らして見ると、うっすらと何かが確認できる。
そこには真っ青な空と白い雲、そして眩しいほどの太陽。ハッと気がついて目が覚めた。
体に
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