コツコツコツ…高らかに靴を鳴らして教卓に立つセリス。
「それでは、これより補習授業を始めます」
キリ…ッと、言い放つセリスにやる気がなさそうに返事をするロック。
「へーい…」
「……ロック? あなた本当にやる気あるの? ガウでさえ簡単な魔法は覚えたのにあなたときたら……」
ごごごごごごご…謎の音と共にセリスの背後から黒い靄が上がってきて、ロックが慌てて背筋を伸ばす。
「は、はいッ! わかりましたセリス先生ッ!! どぞ、授業をッ!!」
はぁ…と息をついて、セリスは言った。
「でもわからないわ…。どうしてロックだけ全然魔法が使えるようにならないのかしら? 私の見たところ一番魔法の力がなじみにくいのはカイエンだと思ったんだけど」
「なじみにくいとか、そんなのがあるのか?」
「ええ。私やティナのような例外を除いて、こればかりは遺伝の問題だからどうすることもできないけど、でもどんな人にだって素養はあるはずよ」
そっとロックの片手を両手で握ってしばらく目を閉じてから、セリスが言った。
「…やっぱり。魔力はちゃんと流れてるわ」
自分の手を握っているセリスの手を少し赤い顔で眺めていたロックが我に返って呟く。
「あ…え? てことは、あのつまり…魔法が使えないのは…」
「単なるあなたの修行不足」
冷たい声で言われてロックが岩と化す。
「…先生〜〜〜そこをなんとか…」
情けない声を出しているロックを冷たい目で見つめた後、セリスが淡々と言った。
「なんとかしないとまずいことくらいわかってるわよ。…アタッカーのマッシュやカイエンならともかく、戦闘でサポート主体のあなたが魔法を使えないのは致命的よ?」
「ちなみにマッシュやカイエンは?」
「二人とも、基本魔法はほぼ全てマスターしました」
セリスの冷たい声に沈んでいくロック。セリスは続けた。
「二人ともかなり修行慣れしてるようね。教えたことを実直にコツコツ根気強く続けてくれるからペースは速くなかったけど、気が付いたらどんどん覚えてたわ。特に二人とも魔法を使うのに大切な集中力がかなり高かったから、もしかすると二人が今までやってきた技の修行と通じるところがあったのかもしれないわね」
口から魂が飛び出ているロックにセリスが上から冷たい声で続ける。
「エドガーさんに至っては何も教えなくても上級魔法まで知らない間に使えるようになってたわよ? まぁ…あの人は頭の構造がなんだか普通の人とは少し違うみたいだけど…」
ちなみに全部一人で魔法を覚えてからセリスに何食わぬ顔で出来ないふりをして二人きりで教えて欲しいと言い出し、セリスを連れ出して口説きまくった。そしてあとからセリスと二人きりでデートがしたかったがための口実だったことが判明したため、セリスは彼には二度と何も教えないことを心に誓っている。
「…それなのに何故か憎めない人よね。不思議と」
呟いたセリスがふと見ると、ロックが眠っていた。
ベキ…ッ!! と濁った音を立てて机が一つ無残に砕け散る。
がくがくと震えながら青い顔で必死にセリスの言う通りに魔法のイメージ修行を始めるロック。
遠くからその様子を見ながらエドガーが楽しそうに呟いた。
「意外とロックは嫁の尻に敷かれるタイプかな?」
「苦労してんなぁ…。あいつ、修行とか苦手そうだもんな」
マッシュの向かいで優雅に紅茶を飲みながらエドガーが笑う。
「だがロックはあれでかなり要領がいい。地道な修行をしなくても自分なりのリズムでコツをつかんで習得していくタイプだ」
「てぇことは、あの手の修行は逆効果なんじゃねぇのか
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