アンジールが忘れるなと言ったその晩。
街の一角には大勢の人間が期待に満ちた顔でぞろりと集まっていた。
「いよいよお出ましか?」
楽器隊のファンファーレが高らかに鳴り響き、時計台の針がカチリと時間を進める。
「ったくお前は。仮にもソルジャーだろ?あまりそわそわするな」
ワクワクとした瞳を輝かせるのはザックス。
そしてお目付役のようにそれを制しているのは先のアンジールだ。
ここは神羅ビルの脇にある会社名義の広大な庭園である。
この一角を利用して行われる社長主催のパーティーは恒例だが、
今回はスペシャルゲストがお出ましとあってより盛大なものとなっている。
「だってさ、あのレムが来るんだろ?そりゃあテンション上がるって」
ザックスの無邪気な顔にアンジールはやれやれといった風で呟いた。
「……お前には全く関係ないだろうに……」
「俺、レムがゴンガガでトークショーした時にやったくじ引きでゲットした
サイン入りブルゾン持ってるんだぞ!」
「……口を開けばまたその話か。 少しは違うことでも考えたらどうだ。
まあ、気持ちは分からんでもないが」
「じゃあさ、アンジールは有名人に興味ない訳?」
「俺か? 興味があるないで言えば……それにしてもセフィロスが遅いな」
「ごまかすなよ」
横で子供のように口をとがらせるザックスの事は知らないふりで、
アンジールはあたりを見回す。
今日のこの場は異国の女優であり、
モデルでもあるレムが招待されたパーティーとあって、
どんな輩が入りこむやもしれない。彼女に何かあっては一大事だと
ソルジャーは7時には集まるよう言われたはずだ。
もっとも、実際はレムの噂を聞いた社長がすっかりと彼女を気に入ってしまい、
彼女がソルジャーを見てみたいと過去に口にした情報を得てのパーティーでもあるのだが。
彼女ほどの美貌を持つ人間(実際は人間と妖精のハーフだという)が
本気でソルジャーを見たいかどうかの真相は闇であるものの、
彼女ほどの存在が自らの足でこの場へやって来る事はやはり希少な機会であるだろう。
レムの為に用意された豪奢な生花で作られたアーチをくぐり抜け、
いざその姿が見え隠れすると紳士のたしなみとしてにこやかに迎え入れようとしながらも、
こらえ切れず声をあげてしまう参列者もいる。
「見てよ、アンジール。あの漆黒の髪。いいなぁ」
「だからお前は……社長が後から紹介すると言っていたから待っていろ」
ザックスとアンジールがそんなやり取りをしていると、ようやくセフィロスが現れた。
To be continued...
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