残される傷跡

 水平線から頭をのぞかせた太陽が春先のバラム大陸を照らし始めた頃、
バラムガーデンの訓練施設に放たれているモンスター達は、目を覚ます気配すらなかった。柵の中で生まれ、そこで一つの食物連鎖が完成している彼らには、野生の凶暴さなど微塵も感じさせることはない。
 しかし、ヒトが踏み入った時には豹変する。体躯の大きなものは牙をむき、俊敏なものは木陰岩陰、或いは空からその時を息を潜めて待っているのである。ヒトは彼らにとっては新鮮な存在であり、また傭兵を志すガーデンの生徒にとってモンスターは実践的な良い訓練になる。その目的でバラムガーデンにはこうした巨大な施設が存在し、訓練施設のみ24時間解放されていた。おもに夜間の利用者は寮生が占め、汗水流し鍛錬に勤(いそ)しんでいるのだが、さすがに夜明けとなると誰もいないようだ。強いて言うならば、なにか武器の破片だと思われるものが地面で夜間照明を反射していて、誰かのペットであろう迷い猫が引っ掻いたり舐めたりと興味を示していることだけ。それは凶暴なモンスターの存在などまったく恐れていないようで、この無防備な子猫の戯れだけが時間が動いていることを証明しているかのようである。
 だがある時、ピタっと猫の動きが止んだ。猫はすくっと立つと、二つの小さな耳をフル稼働させて前後左右の情報収集に必死だった。やはりこの場からは生きて帰ることはできないのか。既に子猫を眼中に捉えて涎を滴らせている獣がいるかと思うと、背筋がぞっとするようだった。
 しかし、心配する必要はなかったようだ。子猫は新しい戦闘(あそび)を見つけていて、その経過を交互に顔で追いながらその動向に見入っている。
 その視線の先では、屋外で2人の生徒が火花を散らしていた。徐々に金属が擦れる音と、息遣いが近づいてくる。一方は金髪にオールドバックの少年で、踝まであるシルバーのコートの下には十字のラインの入ったダークブルーのシャツがのぞいていた。まるで戦闘を楽しんでいるかのような独特のフォームで、半身ほどあるかという両刃の太身剣を操っている。もの足りないのか、相手が手を抜いていることに憤りを感じているのかは分からないが、一息間をあけてもう一方を挑発した。
 「どうしたスコール、もっと俺を楽しませろ!」
 どうやら相手はスコールという少年らしい。こちらは金髪の少年とは対し、まとまりのない黒髪で、服装が上から下まで黒という事もあってか、金髪の少年とはまた違った人を寄せ付けない雰囲気(オーラ)があった。しかし唯一の共通点は、太身剣を操るということだ。こちらは片刃ではあるが器用に応戦している。踏み出すたびに白いシャツの上に光るネックレスと髪の毛がワンテンポ遅れてついてくるのが分かる。
 「おいスコールさんよ!」
 自分の挑発に対してさほどリアクションを示さなかった相手に対して我慢がならなかった怒りなのか、金髪の少年はスコールが踏み込んでくるのを見越しておもむろに炎(ファイア)をぶっ放った。一瞬、炎がスコールを包み込むと彼は衝撃で地面に叩きつけられた。金髪の少年は悪びれる様子も見せずにずんずんとスコールを見下ろせる位置まで歩み寄り、不吉な笑みを浮かべている。その頭上では太身剣(ブレード)がギラリと光り、それはまるで主の指示をいまかいまかと待っているかのようだった。
 一方スコールは熱さや痛みというより、不意打ちをしてきたことに怒りを覚えつつ、その誇らしげな足取りで近づいてくる奴に絶対に仕返しをしてやろうと顔を上げた。
 その時、
視界をなにかが通過したかと思うと、急に脳天に閃光の如く大きな衝
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