読切小説
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禁じ手 2
   呆然とあたしは戦場に立つ

  全く知らない見たことも無い人間が

  血にまみれて足元を埋め尽くしている

  あたしにはそれを悲しいと思う感情がない

  あったのかなかったのかわからない
  そもそもあたしには 人の死というものが

  悲しいことなんて感じたことが生まれてから一度もない


  多分マザーが死んだら悲しい

  生きてる意味がない

  マザーは
  「私は死なないわよ」と
  笑って言ってくれたことがあるから
  一度も疑ったことがない


  じゃあ他には?
  同じ0組の連中でさえ
  死んだら悲しいって感じるのかもわからないんだけど
  いつかはマザーが生き返らせてくれるんだろうから
  心配はおろか
  悲しいなんて考えたことすらない


  じゃあ他は?
  そのほかに あたしがいなくなって欲しくない人間

  そんな奴が現れるのか?


  自分の鎌から滴り落ちる紅い滴を眺めながら
  そんなことを考えていた



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   その日は例のプログラム演習から4日後

   あたしには拒否権が無いから断りようがなかったが
   ありがたいことにあれから一度も参加予定日がなかったため

   通常の演習に参加することになっていた


   


   教室でブリーフィングに来た隊長は

   淡々と自分たちに与えられた使命を説明し
   他の連中が息巻いて教室を出ようとしていたとき


   「サイス、残れ」

   と、一言だけ言われた



   「ああ?」


   この前みんなの前で赤っ恥かかされたこともあり
   できるなら呼び止めて欲しくなんてなかったが

   たまたまこちらを見たエースがうなづいたように見え

   従うしかなくて教壇に近づいた



   「・・・何」

   超不機嫌オーラ全開で仁王立ちしたあたしに


   自分が仏頂面していたからか、かける言葉がなかったのか

   隊長はポケットから何か出して自分の目の前で
   手のひらに乗せて見せてきた


   「どうしても、先日の演習で指摘したような状況下に置かれたら
    氷雪系魔法で足元を固めてから、自分の体勢を整えるといい
    お前の魔力ならこれが使えるだろう」


   と、装備するアクセサリのような指輪だった

   あとから聞いたら特に珍しくもなかったけど


   「・・・・・?なんであたしに?」


   と、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしていると


   「お前以外はその後の演習を終えてから
    私が指摘した事項を復習していたからな
    あの時上の空だったように見えたが?」


   「・・・・・・」

    正直、返す言葉がなかった

    戦場では絶対に許されないことだ


    敵前で呆けるなんて

    
    何か言い返したかったけど
    言葉がなかった


   「私も、他の連中の前で多少無神経だったかもしれんが
    お前が何にむきになろうと、ここは戦場だ
    生還することも任務だ。」


    そういって、あたしの手にそのアクセサリを握らせると
    教室を出て行った



    
   

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 「隊長なんだって?」


   さっきこちらを見ていたエースが声をかけてくる

   「なんか、これつけろって」

   手のひらに握った指輪を見せる

   「ああ・・氷雪系魔法の神髄とかいうやつかな・・
    サイスいいなぁ  」

   と、純粋に羨ましそうなエースに対して

   「あんたが着ける?」

   そちらに放るしぐさをすると
   
   「隊長命令だろう?ちゃんと着けておけよ」


   と、手をひらりと振って行ってしまった





   そのまま自分たちは普通に校門を出て
   今日はエースが手塩にかけて育てたチョコボで移動する


   「しっかり頼むぞ、お前たち。
    あそこまで乗せてくれたら、後は自由にしていいからな」


   またがったチョコボの首を撫でながら
   愛しそうに目を細めるエースは

   戦場に向かない奴だなと、心底思った


   「あんたさ、チョコボの厩舎で働いたら?」

   可愛げないあたしの言葉に
   
   「そうだな・・・戦わなくてよくなったら
    それも楽しいかもしれないな」


   「本当にそう思ってんのかよ?」


   「もちろん」


   「確かに、あんたにゃ 似合いかもね」

   
   戦争が終わって、自分が自由になるなんて
   思ってもいなかったけど
   
   いや いつかは終わるんだろうけど
   あたしたちが白虎と青龍の上に立てれば
   自動的に終わる話だろう

   朱雀クリスタルだって、若いうちは力をくれるだろうけど
   もし、戦争が終わって時間が過ぎれば
 
   あたしにはそのころ何か出来ることはあるんだろうか

   隊長みたいに、若い連中に指導とか?
   いやいやいや 無理

   結婚して子供作る?
   想像できねぇ

   

   しばらく難しい顔をして黙り込んでいたみたいで


   「もし、戦争がなくなったら
    俺が育てたチョコボに、乗せてやるよ」


   と、エースは微笑んでくれた



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   演習が終わって、魔導院に戻ったあたしたちは
 
   みんなサロンに行ってしばらくは
   ぐったりと体をソファに投げ出していたが
  
   ばらばらと次第に人数が減っていった


   エースにふと、さっきの話を聞いてみようと

   エントランスに戻る魔法陣に乗ったとき
   声をかけてみた


   「よぉ」


   「今日はよく話すな」


   何気ないやりとりだった


   チョコボの厩舎にまた行くらしいので

   初めて自分は一緒についていった


   何か珍しいコンビだったからか

   ヒショウは怪訝な顔をしてみたが

   少し目配せをしてどこかへ行ってしまった




   
  「あんたさ、さっき戦争が終わったらどうとか
   言ったじゃん」


  「あれは、サイスがチョコボ育てたら?って言ったからだよ」

  「・・・・いや、まぁ そうなんだけどさ」


  「何か気になったか?」

  「・・・あたしさ、戦争終わったら どうすりゃいいんだろうね」

  「・・は?」


  面食らったエースの表情

  「いや!!今のなし!!」

  「サイス・・・?」

  踵を返し、去ろうとした自分に
  

  「色々あると思うよ やれること」


  振り返ると、馬鹿にするでもなく真面目にこちらを見る
  エースの顔があった


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「そうなんだよね、そしたらトンベリが食器下げに行くんだって!」

  

  それからしばらく、チョコボの匂いが少し気になったけど
  厩舎近くで二人で座って話していた

  あたしは、そのときちょうど隊長の部屋に訪れたときのことを
  話していた


  ふと、この前セブンに話し損ねたことを思い出した
  話し損ねたというより
  言葉にできなかっただけなのだが


  「隊長さ、そんときマスクつけてなくってよ・・・」


  「へぇ?」
   
  「でも・・・信じられないけど 火傷の痕もけっこうあったし
   なのに・・・」


   それまでペラペラ話していた自分が
  急にどもり出したからか
  エースはどうしたのだという顔でこちらを見てきた


  「サイスは、隊長のことが気になるんだな」


  「・・・・・・・!!はぁ?」

  急に声が裏返るくらいでかい声で話したからか
  エースが音量下げろといわんばかりに耳を押さえた


  「気になるんだろう?どういう意味かはわからないけど
   単にあいつは僕らの指揮隊長と言う割りに何も話さないからな
   実際に、どういう奴なのか僕も知らないし
   みんな知らないと思う」


  「そうだね・・・」


  それからは、自分が本当に何を話していいのかわからなくなって
  早々に退散した

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  部屋に戻る途中、トンベリを見つけた

  


  「よぉ、あんた一人なの?」


  なんだかこいつは、妙にうまが合いそうで
  返事はないとわかっていても、つい話しかけてしまう


  小さな体に似合わない紙の袋を抱えて
  ヨチヨチといつもの歩調を見送り、すれ違った


  渡り廊下で、小さな箱庭があるそのスペースからは
  少し夕焼け色をした日差しが差し込んできていた


  すると、後で音がした


  「ギャー!!」


  カラスがトンベリの袋を狙って、トンベリをつつきまわしていた

  包丁を今は持っていないらしく

  少し分が悪そうに見えたので

  カラスめがけてブリザドRFをぶつけてやった


  「いやったね!!」


  あまりの命中に、自画自賛しつつも
  
  「ねぇ、あんた  大丈夫?」

  と、トンベリを助け起こす

  頭に傷をいくつか作っているが、そんなに重傷に見えなかったのに

  ぐったりして起き上がろうとしない


  「・・・死んだ?」


  耳を近づけると、急に目が覚めたのか
  手足をバタバタさせた


  「いってぇ!!助けてやったんだろうが!!」

  ばたつかせた手が思いっきり頬に当たり
  軽いパンチを受けたが
  たすかったのがわかったのか、またおとなしくなった


  「しょうがないから送ってやるけどさ
   あんた、礼とかないわけ?」


  怪我をしているようなので
  あまり刺激しないように抱えたまま
  クラサメの部屋につれていくことにした


  正直、自分はそのとき
  マスクをしてなければいいな
  と、本心で願っていた


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  「どうした!?」   


   両手が塞がっていたから、一応部屋の外から声をかけた

  あたしの手に抱かれたトンベリを見て、表情が少し険しくなる


  「カラスにつつかれてたよ・・・一応ケアルかけたけど
   モンスターにも効くかわかんないから 少しだけにしたけど」



  「そうか・・すまなかったな」


   そんな顔もできるんだ・・・ってくらい
  心配そうな顔をされた


  「どこか寝かせる?」

  「では、そこへ頼む」

  
  見ると、床にバスケットが置いてあり、毛布のような布が
  敷いてある・・・トンベリの寝床なのだろうか


  「カズサにまた薬でも作らせる。
   すまなかったな、帰って休め」


   てきぱきと指示を出すところは、教壇にいるときと変わらない

   すると、トンベリはパチリと目を開けてこちらを見た

   こちらに礼でも言っているのか、じっとこちらを見る

  「・・・いいよ 寝てなよ 」


   こちらの言葉がわかったのか、再び目を閉じてしまった


  「何か持っていなかったか?」

  「ああ、これ、紙袋が破けちまったから、ポケットに入れてきた」


   タバコと、酒かと思われる小瓶と、サンドイッチ

  「あんた、タバコ吸うんだね」

  「たまにしか吸わんが、お前には早い」

  「一口だけ、それで帰るからさ」


   興味があったのも事実だけど
   もっと興味があったのは

   マスクを取った顔

   隊長じゃない顔
   自分しか知らない表情


   しょうがないなという顔をして、タバコの封を切って1本出して
   こちらに差し出した

   
   「え・・いいの?」

   ちょっと拍子抜けした
   堅物かと思ってた隊長があたしにタバコを勧めてくるなんて

 

   「その反応だと、いつも吸っているようではないな
    健全で何よりだ」


   そういって、クラサメはタバコの箱を取り上げようとした
 
   自分はなんだか子ども扱いされたような気がして
   箱を奪って1本くわえてみた


   
  
13/07/06 18:43更新 / 霜月(bruler)

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