禁じ手 クラサメ×サイス
比較的任務が少ない日々が続いている
クラスのほかの連中は、読書やら鍛錬やらで
あまり教室に残っている様子はない
一度教室をのぞいたのに
トレイが本を読んでいるだけで
他には人がいなかった
踵を返そうとすると
「ああ、サイス 先程隊長からあなたを呼ぶように
言われたんですが、どこへ行っていたのですか?」
、と、なんだかカチンときそうな言い方をされた
「別にいちいちあんたに行き先を言う必要あんのかよ?」
不機嫌に答えてみたが
「12時までに来なければ、戻ると言っておられましたが
あ、もう過ぎてますね
早めに隊長の部屋にでも行かれたほうがいいでしょうね」
意外と普通に返されたので、しぶしぶ向かうことにする
コンコン
ノックをする
あれから色々探したが、上官に聞いてようやく
隊長の部屋を聞き出した
直属の上官であったとはいえ、なぜか部屋を聞いていなかった
実はプライベートルームでもあると言われたが
あの同期の変態科学者と似てる部屋ならいやだなと
少しためらいながらノックをしていた
しばらく待つと、キィと部屋が開いた
ドアの向こうにいたのは、トンべりだった
「あんたしかいないの?」
私はトンべりに聞いたみたが
「少しそこで待て」
と、部屋の奥から声が聞こえた
呼んでおいて待てとはなんだと
少々イラついたが
とりあえず扉が開いているので
トンべりと部屋に入って待つことにする
カチャカチャという音が聞こえて
食事をしていたのがわかった
・・・・食事・・・?
ちょっと気になっていたマスクの下を
見られるかもと思って、少し奥をのぞいてみた
すると、
意外にもマスクをつけないままでこちらを見て
グラスに注がれた水を一口飲んでから
「待てと言ったはずだがな・・・」
と、少しあきれたような口調でこちらをにらんでいた
「あ、ごめん。 」
いつになく素直に謝ってしまった
だって・・・
こんなに綺麗な顔してたんだって感想と
こんなにひどい傷跡だったんだって感想が
一度に頭をよぎって、
いつもの憎まれ口を叩くことを忘れていた
足元をトコトコとトンベリが横切っていった
「すまないな・・」
食事が乗った盆を下げに行ったらしい
「すごいね、そんなこともできるんだ・・」
「しつけが行き届いているからな」
と、少しいやみも入っているであろう声が飛んでくる
器用にトンベリは盆をドアまで運ぶ
「開けてやってくれ」
と促され、扉を開けてやると、
トコトコとおそらくはリフレッシュルームまで
食器を返しに行くのだろう
いつもの歩調で歩いていってしまった
「サイス」
いきなり名前を呼ばれた
「え?何?」
「用があるから呼んだんだが・・
お前に、今後このプログラムを入れていく
お前はあのクラスでは珍しくもないが
チームプレイ的なものにあえて参加しないことが多いからな」
・・・・キングよりましだろう
と思ったが
「あたしに何をさせようってんだよ・・?」
と、にらむと
「そうにらむな、お前の武器はそれでなくても近距離専用だ
シンクやエイトにも同じことを言っているが
いざ戦闘となって、お前たちだけが生き残っても
遠距離の的に対応できないことが多いだろうということで
こういったプログラムを組むことになった」
「クイーンやレムやナインはいいのかよ?」
「クイーンとレムは魔力の成績が優秀なので
そこは対応する魔法を準備することでまかなえる
ナインはあの槍で命中率を上げたことからクリアしているそうだ」
あの筋肉馬鹿め・・・変な努力しやがって・・
ちょっとナインが除外されたことが面白くはなかったが
やってやると言われている以上、逆らってもマザーを困らせる
仕方なく渋々うなづく
「わかった、受講時間やその他場所については、そちらの
書類に記載しているので、確認しておくように」
と、言われて隊長の机を見ると
いつも顔を覆っているマスクがそこに置いてあった
悪いかなと思いつつも、もう一度顔を見てみる
氷剣の死神といわれていたとか言うけど
確かに、違う意味で冷たい印象があるクール系な顔だと思った
「・・・・そんなに珍しいか?
こんな世の中だ、やけどを負った顔くらいたくさん見ているだろう」
と、こちらの視線に訴えてきた
「あ・・いや、そうじゃなくて
気に障ったなら悪かったけど、あんたってそんな綺麗な顔してたんだ
知らなかったよ・・・
でも、逆にこんな世の中って言うんなら
わざわざ隠さなくても良くないか?」
いつもよりも自分が素直に答えたほうだと思う
が・・・
「お前がそんなお世辞をいえるとは驚いたが・・・
私にかまう必要はない。
これから仕事なので、帰っていいぞ。」
と、ぴしゃりといわれてしまった
「わかったよ、帰りゃいいんだろ?」
面白くなかった・・・
いつになく素直になってしまった自分に対してだとは思うけど
「サイス、これからはきちんとCOMを準備しておけ。
院内であっても、連絡することはあるのだからな」
と、更にいやみを言われた。
少々乱暴に閉めた扉を後ろに
廊下を歩いて戻った。
部屋に戻ってからも、少しぼんやりしていた
いやみを言われたことや、プログラムのことじゃなく
あの顔とその傷が
脳裏から離れなかった
「サイス、いるのか?」
部屋にセブンが入ってきた
さっき隊長が呼んでいた件を話始めたが
「行ってきた・・・」
と、仏頂面で返すと
「ああ・・・みたいだな」
と、これまたニヤリと笑われた
「そうむくれるな、私の武器も長距離には限度があるし
対象にはならなかったが、魔法は装備を厳選しろと
注意を受けたんだから」
・・・
「あ? ああ・・・」
セブンはどうやら、私がプログラムのことでむくれていると
思っているらしい
「・・なんだ、違うのか?不機嫌そうだからてっきり・・」
「 いや・・・それはそれで面倒っちゃ面倒なんだけどさ・・
そうじゃなくってさ・・」
「・・なんだ?何かあったのか?」
真剣に聞いてくれる。
セブンのこういうところが、後輩に好かれるところなんだろうな
ちょっと羨ましいと思いながら聞いてみた
「セブン、隊長のマスクの下の顔、みたことあるか?」
「いや・・・無いな 確かカズサが知ってるんだろうけど
最近は素顔をさらさないとモグが言ってたっけ・・・
それがどうしたんだ?」
「・・・さっき、部屋訪ねたら 食事中で
マスクしてなかったんだ・・・」
「・・へぇ・・・素顔を見たのか」
セブンはそれがどうかしたか?と言いたげだ
正直自分でも思う
一体何がそんなにひっかかっているのか?
気になっているのか?
「・・・やけどがあったよ。それだけだけどね・・」
自分でも随分と歯切れの悪い物言いをしたと思うんだけど
説明がつかなかったし
こんな話聞いてもセブンも何もいいようもないだろうと
ちょっと思った
ついでに、レムやデュースみたいな女の子系な生き物に
自分のことを相談するなんて
気恥ずかしいことできるわけがなかった
セブンはきょとんとした顔をしていたが
あたしは自分の中身をさらけ出すことが苦手なんだと
思い知らされた
何を感じたんだろうか
一体あたし何やってんだろ
あんだけ綺麗な顔なら、エミナ先生みたいな大人で美人の隣でも
お似合いに見られるんだろうか
・・・・・
「いや・・・別に関係ないし・・・」
散々頭の中をぐるぐるした何かを
それから数時間
頭の中で反芻したような気がしていた
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数日後、面倒がっていたプログラムとやらに参加し
自分は特に面白いわけでもないが、淡々とこなしていた
「感心ですね、サイス。あなたがこんなに真面目に取り組まれるなんて」
と、クイーンに言われたくはなかったけど
やんわりしたお褒めの言葉をもらった・・
単に遠くの的を狙った魔法の特訓か何かかと思っていたけど
珍しく隊長がじきじきに実技指導していた
遠くから来る魔法の攻撃は隊長自ら
中距離から来る武器からの攻撃は他クラスの有志から
交互に来る攻撃に、かわすこともそうだけど
自分が魔法を浴びせて相殺する攻撃や
大鎌ではじくことも
わざわざ今まで意識していなかった
自分の死角も全て
エイトやシンクも、参加していたけど
「ね〜 隊長って、ずっとこんなに今まで
あたしたちのこと見ててくれてたんだねぇ〜」
と、シンクは感激していたようだったし
「マザーから聞いていたのかもしれないが
俺の魔力でいかに最後の一撃の魔法を打つ余裕を残すか
検討課題が見えたから良かったな」
なんて、エイトは真面目腐った返事をしてきた
あたしはっていうと
確かに、こんなに自分の弱点を見てこられていたのかと
0組の指揮隊長に任命されてからまだ日も浅いのに
熱心だなと自分でさえ感心していた
休憩をはさんでから、自分の演習の番になる
今度は10分間の隊長とのタイマンだ
「サイス〜〜〜頑張って〜〜〜」
と、シンクの間延びした声が後ろから聞こえる
正直、神経を張っているとき、シンクの声は聞きたくない・・・
エイトは腕組みをしてしばらくこちらを見ていた
そういや、マキナって対象になってないのかな?
あいつ最近変だしな・・・
なんて思っていると
「、戦場ではその一瞬の隙が命取りになるぞ・・」
と、言うが早いか
多分、剣を抜いたんだと思う
それまであたしの目の前で、立っていただけだった隊長が
一瞬で自分の間合いに入ってきていた
ほんの数10センチの距離、目線はほぼ同じ
鎌を振り上げるタイミング、両手でつかんでいた鎌を
はじき落とされた
左下から間合いに入り込まれ
自分が振り上げようとした手をつかんだまま
反対方向に払い上げられたからだ
腕がびりびりしびれるくらい痛い
今日はまだ誰の血も吸わせていないからか
怨念が溜まっていない鎌は
あっけなく地に刺さる
自分はかろうじて転倒を免れるが
横っとびによけてよろめいたと同時に
飛んできた氷の玉に足元を攻撃された
「いってぇ・・・・」
呻く声に対して
「サイス、敗因は何だ?」
と、問われた
「なんでかって?あたしが弱いからだよ!!」
逆切れだったが他に言葉なんかなかった
ちょっと余裕見せて手に擦り傷くらい作ってやるかと
思っていたのが本音だったのだ
まさかこんな数秒でカタをつけられてしまうなんて
恥ずかしくて仕方ない
「鎌を振り上げるのは、その瞬間に大きな隙を作るのと同義だ
この場合は、相手を自分の間合いに入れて
相手の利き腕の見方を考えればいい
女であることを生かせば、小柄で動きやすいほうが有利なのだから
しばらくは今の実演を頭で反芻しておくように」
淡々と指摘を受けてはいたが
正直いうと、このときは
すでに腹が立つわ情けないわで
頭ん中がグチャグチャだったから
聞いちゃいなかったんだけど
「次、エイト」
と言われて
我に帰り、シンクの横へ戻った
「残念だったねぇ〜〜」
間延びした声がする
でも、あたしは多分それを聞いていなかった
13/07/06 18:39更新 / 霜月(bruler)