読切小説
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口実3 ※15禁
   


 「またこうなったか・・・」


    あたしは眉間にしわを寄せて
    ため息を付きながら
    ぼやいていた


    任務的にはそんなに難しいものじゃなかった


    むしろ今度はけっこう楽だったのに


    装備が十分整っていなかったためか

    突入後にかなり消耗した体を癒すために

    しばらくの間

    回復の機会ばかり探していた


    そう、実はかなり今消耗しているのに、
    
    もう魔力も底をついた、ジャックとあたしの二人きり


    「なんかさ〜 このままじゃやばいねぇ」

    と、ジャックがイライラすることを口にするから

    カチンときてにらみつけてしまう

    やばいなんていわれなくてもわかってるっつーのに

    エースが近くにいるらしいが

    目視できる範囲にいない


    傍受されている可能性から

    いつもよりは味方からのコンタクトが少ない


    ここは以前来たことがある

    あの、忘れもしない

    レムとマキナのキスシーンを目の当たりにした

    あの人口窟近くだ

    ちょっと頭をよぎるが

    集中しないといけないと

    首を振って脳内からそのシーンを追い出す


    嫌なのはそこだけじゃない

    モンスターが多すぎて
   
    しかもかなり手ごわいものが

    その辺りを右往左往していて

    脱出できないのだ

    敵兵そのものは大して強くもないが


    辺りにいるモンスターに
    装備品を浪費しすぎていて

    任務遂行前にジリ貧といったところなのだ


    「あんたと組んだのが運のつきなのかしら」


    思わずジャックにそうぼやいてしまうが

    「そんなぁ〜 見捨てないでよぉ」


    泣きそうな顔をして
    情けない台詞をやすやすと洩らす


    あいつなら 絶対に言わないだろうな


    意地だけは一人前なんだよね


    と、不意に頭に浮かんだ

    でも、今回は多分あいつは来ないだろう


    もやっと頭の中をよぎる・・



    そのとき


    「エイトならケイトと二人で脚力だけで
     切り抜けられそうだよね」


    ジャックに見透かされたかと思い、ドキリとする

    「ごめんねぇ 僕足遅くて
     ケイト置いて行ってくれていいよ?
     その代わり、僕がここにいるって
     救援遣してくれたら嬉しいな」


    笑顔でケロリとそんなことを言う


    「わかった・・・すぐに応援呼んでくるわ
     このままじゃ共倒れだしね」


    一度見透かされたかもしれない顔を
    表情をただし

    突破口を探そうと辺りを見回すことにした




    あたしはひとまず、さっきエースがいたはずの


    例の人口窟を目指すことにする


    なるべく木の陰や岩の間


    小さくて足の速い自分は

    見つからないように


    それでいて 一撃で倒せそうな相手は

    遠くから狙いながら


    少しずつ目的地へ向かっていく

    しばらく行くと


    「あちゃ・・・ぁ」


    思わずこぼれてしまう

    人口窟入り口に敵兵がいた


    倒せないわけじゃないけど

    奥にいる誰かと話している様子から

    二人以上はいるのだろう

    もし、3人以上、いやもっとであれば

    下手にかかれば増援を呼ばれてしまって

    確実にアウトだ



    「嫌だけど・・・ジャックを呼びに戻るか」

    爪をかじりながら、少し戸惑った瞬間

    「バキリ」


    自分の左足が枝を踏んだ


    瞬間、その付近の枝に止まっていた鳥が


    かなりの数で一斉に飛び立った


    すると、先程まで談笑していた敵兵が

    体を低くし、銃でこちら側を狙いながら

    あたしを探そうとそろそろと出てくる


    一人・・二人・・・いや 四人?

    目視できないけど、確実に三人はいるのだろう


    足音が近づく・・30メートルといったところか


    あまり近づけないが、気づかれたなら

    味方のところには戻らない


    一人ずつ確実にこの距離で仕留めていかないと


    元から自分の銃は狙撃用には出来ていないが


    致し方ない


    そうして ゆっくり標準をあわせていく


 --------------------------------------


    「!!」


 向こうからの銃撃を受けたものの、

  耳の真横を通り抜けて、更にスカートの端を持っていかれた

  現状被害はそれぐらい・・?

  いや

  真横を弾が通ったからか、若干左耳の様子がおかしいか


  でも、ゆっくり様子を見ながら隠れて


  そのつど攻撃を仕掛けた甲斐あって

  今四人倒したところだった


  しかし、こうなってはあの人口窟に近づいても

  特に益はなさそうだ


  「エースめ・・どこ行ってんのよ・・
   それか他の連中いないわけ?」


   しばらく身を木陰に潜めたが

   誰からのコンタクトも無い

   仕方なくジャックのところに戻れるか

   人口窟に生き残りがいないかだけ

   様子を見に近づいていく



   さっき仕留めた連中の遺体・・・


   仕方が無いとはいえ

   少しだけ気の毒だと思った



   そのときCOMMに連絡が入る


  「ケイトか?僕だ、エースだ
   今の状況を教えてくれ」


  ホッと胸をなでおろして

  報告する

  「僕が行くまで待機していてくれないか
   ジャックがどうやら応戦中らしい
   援護してから回る」


  そう声早に言うや否や
  即座に切れる通信


   「ジャック・・感づかれたか
    エースが間に合うといいけどな」


  外から気づかれても困るので
  少し奥へ進んでから
  自分の体を休ませるため、軽く壁にもたれて座る


  仲間を心配してみる


  そして・・ほんの少し思う
  また、あいつが来ないのかなと


  すぐ近く・・1km辺りに戦闘の音が聞こえ始める


  タタタタタ

  多分機関銃的な音がして

  音が止む


  耳を澄ませてみるが
  少し左側が聞こえにくいままである

  

  軽く目を閉じていると

  違和感を感じて目を開けた


  倒したはずの敵兵がいない・・?


  遺体は動かしていないはずなのに

  見える範囲にあったはずなのに・・・


  生きていたのなら、とどめをさしておかないと
  
  ここに増援を呼ばれたら

  ジャックとエースがこちらに向かってくる途中に

 
  下手に鉢合わせになることもある


  あいつらなら大丈夫と思いたいが

  あまり余計なお荷物になりたくない


  背を低くしながら、銃を持って出口に向かう


  すると。


  いきなり目の前に兵の姿があった


  「!!!!」


  やっぱり生きていた!!

  銃を構えたその一瞬

  自分の銃を捕らえられ、腕ごとひねり挙げられる



  「いっつ・・・!!!」


  自分は銃を納め、体を離そうとしたとき

  バランスを崩して左側に体が倒れた


  その瞬間に自分は両手を頭上で捕らえられ

  敵兵に馬乗りにされた



  ごくりと息を飲む

  咄嗟に声が出ないとは言うが


  敵兵の口元が動いたが

  聞き取れない


  そのとき頭によぎった


  ナニサレルンダロウ・・



  ざーっと血の気が引いた


  自分がこれから何をされるのか

  頭の中で結びついた瞬間


  足がすくんだのか凍りついたのか

  動けず、目をつぶるしかできなかった


  敵兵の手が自分の口元を覆うように
 
  近づいてきたのを感じ


  「・・エイト」


  思わず口から出ていた


  目からも何かこぼれ落ちていた


  その瞬間、自分の両手が解かれた


  何をする気だと目を見開いたとき

  敵兵のかぶったヘルメットの下に

  見慣れた顔があるのに気づいた


  「・・・・エイト?」


  それにうなづくと

  ヘルメットを外してから

  ため息を付く


  が、何か言っているのに

  聞こえないのだ


  「待って、あたし なんだか今 耳が聞こえないみたい」


  そういうと

  エイトは事情を飲み込んだのか、指で地面に書き始めた


  ダイジョウブカ?


  「うん」

  あたしが頷くと、安心した様子で上から退いた

  入り口付近に倒れていた兵の装備を一通り奪った彼は

  中に誰かいないか確認しようと敵に扮した様だった


  でも

  安心したのに 震えている自分がいた


  涙も止まったのに またあふれてきそうだった


  すると


  いきなり自分の横に膝を付いたエイトは

  あたしを抱きしめてくれた

  あんまりにも力強い腕だったからか


  少し戸惑ったのに


  そのまま彼に体を預けたのは


  自分でも何でだったのか

  よくわからない


 

  
  あたしらしくない


  そういわれたらそうかもしれないけど


  ちっとも嫌とかじゃなかったし

  心地よかった


  ・・・


  エイトの心臓の音は、なぜか聞こえてきていた

  そのまま耳を押し付けているからか

  骨を伝わってくるその鼓動は


  眠るときに自分が聞いた鼓動よりも

  はるかに速かった



  実は少しだけ 思っていたことがある


  エイトはあたしのこと好きなんじゃないかって

  でも 勘違いかもしれないって思うことが多かった


  基本的にいつも一人でいるエイトが

  あたしが危ないときには必ずと言っていいくらい


  近くにいてくれていることが多いってこと


  ちょっと感謝してみたほうがいいんだろうけど

  なかなか素直にはなれていなかった自分がいて


  どうしていいかわからなかったから


  

   ふと、顔を上げると


  じっとこちらを見ているエイトと目が合う


  いつもなら逸らしてしまうんだけど


  こうしてみたら、ちょっとは男らしくなったのかな

  小さいときから知ってるのに


  
  そのとき、ちょっとエイトの口元が動いた気がする


  聞こえないから首をかしげる


   気づいたら、キスされていた    


  実は、そのときほんの少しだけ


  気づいていたような気がする


  キスしてくれるんだろうなってことも


  その口元が何を語ったのかということも


      


    
13/10/17 11:44更新 / 霜月(bruler)

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