読切小説
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FFX Next Generation 01
深い海に沈む俺のカラダ。

波に流され、バラバラになって。

必死に手を伸ばそうとしても、あそこには戻れない。
意識を保とうとすればする程、また濁った世界に引きずられそうになる。

だけど覚悟はしていたんだ。この世界に来た意味、俺が存在する訳。
千年の祈り子達の願いが生んだ希望が、俺。
「シン」が親父と判った時から感じていた運命、それを受け入れなければいけなかった。
『役割』を果たす事が生きていく意味…そう思うことにいつしか慣れていた。
皆と別れることも、寂しくないと思った。
だけど愛する女性(ひと)ができたんだ。
それだけでこの世界に留まらせる理由になった。
…でも結局運命には逆らえなかったんだ。

徐々に消えゆく俺の体。透けて、今にも溶けそうで。

だけど…。

だめだ…だめなんだ。

本当はこの世界に残りたい。
もう一度やり直したい、スピラに帰りたい。
この思いは嘘じゃない、運命とか、役目だとか、そんな事は関係なくて、 ユウナをこの腕に抱きしめたい…それだけなんだ。

「もっとアイツを好きになりたいんだ。もう泣かしたくないんだ。だから…戻りたい」

だけどエボン=ジュが存在しない限り俺のいる意味がない。オヤジもアーロンも幻獣達も、そして俺も。
『もうキミの役割は終わったんだよ』
『これがキミの物語だったんだ』

バハムートの祈り子は想像となり、頭の中で俺に語りかけていた。
「違う!俺の物語はまだ終わってはいない!走りたいんだ。もっと走って生きたいんだ」

精一杯の叫びは幻となって、泡のように消えた。

「……」
かろうじて保っていた意識は次第に薄くなって、心地の良い波と共に暖かい気持ちになった。
このまま波に流されればいいのだろうか。

このまま、何もかも忘れてしまえばいいのだろうか。

「…ユ……ナ…」
ユウナ…キミに会いたい。もう一度、奇跡をおこしたい。
だけど目の前に広がる視界は深い蒼色の底だけしか見えなかった。足を抱え込み、絶望の淵に流される。
やがて俺の足元から柔らかく、懐かしい感触が包み込んだ。
「か…あ……さん?」
ずっと忘れていたあの思い。子供の頃に母に抱き上げてもらった、あの優しさ。
その感覚が俺を何処かへさらおうと、手を伸ばす。
「かあさん……ここにいたんだ…」

突然、冷たく刺すような光が視界を遮った。
「!!」
穏やかな海の中は騒然となり、小さく輝く3つの幻が瞬時俺の周りを纏わりつき、それは力強く何かを語りかけていた。

『もうお前達の時代だ』

それは、アーロンが俺達に告げた最後の言葉だった。

『オレ様の息子がこんなところでくたばっちゃいけねえなぁ』

…え?!

『もう一度、走ってみせてくれないか』

…この声は…。

ああ…そうだ。
走りたい…。

もう一度、地に足をつけて走りたい…!!

俺はまだ終わっていないんだ。

『そうだ。希望に満ちた少年の夢よ…走り抜けてくれ!』

一つの幻が強く輝き、続くように二つの幻が俺の全身を包み込んだ。

ユウナ…!


すると、突然眩しい光が目に飛び込んできた。

「眩し…っ!」
刺すような光に耐えきれず、手で顔を覆った。
トンネルを抜けきって暗闇から急に明るい外へと飛び出したような感覚に捕われたかと思うと、いつの間にか水面に光が広がっていた。
頭はまだぼんやりとしているけど、何かが突然変わったのは判った。
目を細め、白く眩しい光の中をじっと凝らして見ると、うっすらと何かが確認できる。
そこには真っ青な空と白い雲、そして眩しいほどの太陽。ハッと気がついて目が覚めた。
体に感じる冷たい水。
さっきまで生ぬるい海水の中を漂っていた。そして頬にかかる小さな生き物、いつしか小魚が体の周りで蠢いていた。
俺は今大陸灘にいるのか…?
そう理解するには時間がかかった。

そろそろと体勢を変え水面に向かって上に進む。
そして水しぶきと共に水面から顔を出し、大きく深呼吸をした。
久しぶりの新鮮な空気を吸うと気持ちがはやりだす。心臓のドキドキが止まらない。
そしてまた、水をかきわけ浅瀬を泳ぐ。
とりあえず岸に向かわなくては…と、自然とかき分けるスピードが速くなる。
早く、早く。
知っている…。
この頬にかかる暖かさ、そして岸辺に生える青々とした木々、桟橋に停泊している小さな船はキーリカへの連絡船だ。
砂浜には並べられた漁網の上で捕獲された小さな魚が日に干されている。
丘では小さな子供達がブリッツボールで遊んでいる。
いつもの風景、覚えてる。

ジャリっとした感触が足の裏をくすぐる。
「アハハ…」
さっきから笑いが止まらないんだ。
俺はココにいる。
もう一度、両足で大地を踏みしめた。



「リュック今のうちに出発しちゃおう!」
「おっけー!」
力強くうなずくと、リュックは飛空艇の運転室まで走りだした。
「もっと、欲張ってもいいよ…ね」
ユウナの手にはキマリが見つけた不思議なスフィアが輝いている。
それをギュっと強く胸に抱くと希望が沸いてきた。
もっと走りたい、海から来た少年はそう言っていた。
夢か、現実か、それはユウナ自身がよく判っていた。

『シン』のいないこの世界を作ってくれたのは、夢を現実に変えてくれたキミ。
エボン=ジュが作った少年が住むザナルカンドは夢。

『ザナルカンド案内できなくてゴメンな』

ううん。もう知っているよ。
夢を現実に変える魔法は知っているよ。今度は私がキミの街を探しに行くから。
絶対にキミを見つけるから。
ユウナはスフィアを抱きながら空を仰いだ。


岸辺にあがるとヒンヤリとした風が、濡れた体にまとわりつく。
「さ、寒いな…なんでこんなにカラダが冷えているんだ?」
ブルブルと全身を震わせながら、とりあえず服を乾かそうと大きな木の下へと移動し、そこで足を抱えて座り込む。
木漏れ日は暖かく、すぐに服も乾き体も暖かくなってきた。
「!」
無意識に握られたフラタニティに違和感を覚える。
いつの間に?
「もう、必要ないんじゃないッスか?」
水泡で淡く光った剣をじっと見つめていると、以前の不安が頭を過った。
「このシチュエーションには覚えがあるんだよな。前にもアーロンに無理矢理スピラに連れてこられて、寒い中でたき火を焚いて…そしたら眠くなって…」
少しづつ昔の思い出を辿ってみる。

「夢を…みていたんだ、ひとりぼっちになった夢。あの時は本当に一人なったのかと思ったんだよな。本当はオヤジもアーロンも見守ってくれていたなんて気がつかなかった」
遠くで子供達の声がする。
「オヤジ…昔と変わらなかった。当たり前だよな…10年もシンをやっていたんだから」
最後にケジメをつけたかった。親が子を想う、それが判ったのはこのスピラに来て大分たってから。
あのザナルカンドにいたらずっと判らなかった。知らぬままオヤジを憎んでいたのかもしれない。
アーロンは俺にそれを伝えたくて、判らせたくて自ら死人になったんだろう。
今何もかも終わったからこそ、判ったんだ。
「アンタには本当に感謝している。本当は目の前で言うべきだったんだろうけど、ここに居ないし…」
俺に黙って旅を続けさせ、全身全霊をもって伝えてくれたアーロン。
「俺がここまで強く生きてこれたのは全部アンタのお陰なんだ。オヤジとの約束、果たせて良かっただろ」

久しぶりに歩いたせいか、徐々に体の疲れが出てまた急激に眠気が襲ってくる。
スピラの陽の光は優しく、懐かしく、柔らかく体を包み込んでいた。

「あれから…どれ位たったのかな…」

立ち上がって行くべき場所はあるはずなのに、疲労と強い眠気でいつしか夢の中へと誘われていった。


「なんだって?」
「だから…さぁ。オレにもさっぱりでな」
ビサイドの村の外れにある小さな家。その中で驚いた女性の声が一際高く響いていた。
小さな漁村は昔から素朴な生活を営み、女性達は織物で男達は漁で生活をたてている。
村の奥にはエボンの教えを唱え、歴代の大召喚士を祭った寺院が建っている。
小さな家々の中でその建物はとても目立つ位置にあった。以前は新しい召喚士が旅立つ聖なる場所として繁栄を極めたが、『シン』の脅威が去った後、祈り子の間はただの像に代わり、人々の安息を願う象徴と変わっていた。
「アンタっていつもそう!もっとユウナの気持ちを考えてから行動しなさいよ」
身重の女性は長椅子に腰掛け、前に立つ男を見上げて叱咤していた。
「オレだってさぁ…ユウナには幸せになって欲しいけど…だけど村の長老達がよ…」
申し訳なさそうに頭を掻いた。
「だけど、このスフィア気になるわね…どうして今更ガガゼト山から出てきたのかしら」
「あのスフィアに写るヤツがアイツだなんて信じられねぇけどな」
ルールーは重いお腹を両手でさすり、しばらく考え事をしていた。
「ねえ…ワッカ」
「あん?」
ふと、顔をあげてワッカと視線を合わせた。
「私ね、以前から気になっていたんだけど、ユウナ達から本当の事を聞いていないような気がする。祈り子の事だって…。私達には見えないものばかりだった。アーロンさんとティーダとユウナだけに理解されていた事ばかり。 だから上辺だけのユウナの気持ちしか判ってあげていないのかも」
「ルー…」
「この機会に話を聞いてあげましょうよ。ユウナがこの先何をしたいのか、それとティーダの現れた本当の意味を…」
ふっ、とルールーから優しい笑みが見えた。
「そうだな、あれから忙しい日々だったからな。ちゃんと将来の事を考えなくちゃいけない時期なのかもしれねぇな」
同意したように、ワッカも笑い返した。
「…で、ユウナは何処にいるのかしら?」
「リュックと飛空艇にいるぜ」
ハッとルールーが驚き、勢いよく立ち上がった。
「おい…っ」
「アンタって本当に先々考えない男ね!」


ビサイドの陽で誘われた夢は、現実に近かった。

「ちゃんと岸まで泳げたか?」
「当たり前だ!そこまで鈍っちゃいないって」
夢のザナルカンドの街並み、一際高い位置にあるスタジアムのグランドの中心で、オヤジが腕を組んで立っていた。
ここは『シン』となったオヤジと最後の対戦をした場所でもあった。前は近づくと小さい頃のオレに変わっていたんだよな。でも今はオヤジが目の前にいた。

「はははは。驚いたか?以前もこんな場面があったよな。今度はちゃんと修正しといたぜ」
「…あん時はガキの頃の俺が立っていたけどな。なぁ、どうしてここに来たんだよ」
「さぁな、俺には判らねぇな」
「はぐらかすなよ」
目の前に立つオヤジは以前と変わらない格好をしていた。
相変わらずオリジナルのユニフォーム。夢のザナルカンドではヒーローだったオヤジ。きっとスピラの世界でも活躍をしていたんだろう。
名声はあちこちで聞いていた。
「どうして俺はスピラに戻ってこれたんだよ」
疑問をオヤジにぶつけてみる。
「ああ、答えは単純でよ。お前の夢はオレの夢なんだ。ずっと前から、そうだな…お前が小さくて泣き虫だった頃からな。ずっとオレは夢が現実になれるように考えていたってワケだ。
んで、ふと、ある時閃いたんだ。夢を叶える方法。だから…」
懐かしそうに俺を見つめるオヤジ。きっとザナルカンドにいた日々を想っていたのだろう。
「…自ら俺の祈り子になったんだろ」
「お、正解だ。ちったぁ自分で考えられるようになったな」
へへへ…と嬉しそうに笑う。
「でもな、これを実践するにはオレ様の力だけじゃ叶えられねぇ。悔しいけどな。
だから、ブラスカとアーロンにも協力してもらった」
「アーロン達にも…」
自然と自分の両手を見つめた。
「感謝しろよな。お前がこうしてスピラに戻ってこれたのは、現実だ」
夢を叶える。それには多くの犠牲があった。幸せを掴むというのは並大抵の努力では叶わないだろう。
これは戦いの日々で学んだ事だった。

「でも、お前をスピラに戻したのはオレ達だけじゃねぇよ」
「え…?」


それは誰なんだ?

15/03/27 07:39更新 / 松田慶

■作者メッセージ
『永遠のナギ節』から勝手に考えたティーダとユウナの物語です。長編なので続きはサイトにて。他にもティーダ×ユウナの恋愛小説からFF4セシル×ローザ、カイン×ローザ、夢小説まで。是非遊びに来て下さいね!
http://paopaocafe.blog11.fc2.com/

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