読切小説
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【FF15】王子と雷神
そこは、神秘的な場所だった。
ニフルハイム軍に国を追われ、旅に出たノクティス王子一行。旅の途中で車が故障してしまったため、その修理代が必要だった。
噂によれば、ダスカ地方に住み着いたスモークアイと呼ばれるベヒーモスの角は高く売れるらしい。その売値で修理代を賄うため、ノクティスたちはベヒーモスを倒すことに決めた。
一度は戦いを挑んだものの、歯が立たない強さだった。それで、チョコボ牧場の店主から情報を聞き、貴重なアイテムが眠るフォッシオ洞窟にやってきた。
次から次へと現れる敵を倒し、不思議な武器も回収しながら、ノクトたちは洞窟の最新部にたどり着いた。
緑色の泉。そして、その中に立つ光る木。
「なんだろう、ここ?」プロンプトが横から言う。
「これは……」
ノクティスは不意に、その光る木に興味を持ち、何気なく触れた。
すると、稲妻のような光がその木から発せられた。指先に軽いしびれを感じ、ノクティスは思わず顔をしかめる。だが、それも長くは続かなかった。稲妻のような光は数秒瞬いたあと、ノクティスの手のひらの上で飛散し、消えた。
(なんだったんだ、今のは?)
放心状態に陥ったノクティスがぼんやりと考えていると、頭の中で老人のような威厳のある、しかしあたたかみのある声がした。
「王子よ。我の力を貸そう。そなたの命が危なくなった時には、次の呪文を唱えるがいい。『デウス ディ トニトルス ダ ミヒ ヴィム』」
(デウス ディ トニトルス ダ ミヒ ヴィム)
その呪文を頭の中で繰り返しているうち、仲間が畏怖の表情で自分の顔を見ていることに気づいた。
「ノクト、目……。」
プロンプトが驚愕に目を見開いている。
「ん、目がどうかしたか?」ノクトは聞き返した。
「いや、なんでもない、出よう。」イグニスがそう言った。
この時、自分の目が赤くなったことにノクティスは気づかなかった。

そして、一行は再びスモークアイに挑んだ。
「調子乗りすぎるなよ。」
「お前もな。」
グラディオ兄貴に忠告され、そう軽く答えたものの、ノクティスはかなり不安を覚えていた。迫り来るスモークアイの巨体をジャンプしてかわし、ファントムソードを召喚すると、シフトブレイクをお見舞いする。
しかし、いくらシフトブレイクを叩き込んでも巨大なベヒーモスの体力はなかなか削れそうになかった。そのうち、MPが切れたノクティスは、ベヒーモスの腹の下に入り、仲間と連携し、武器で叩きながら回復するのを待つことにした。それがいけなかった。
ベヒーモスの後ろ足がノクティスの胸を蹴り上げたのだ。
「ぐあ!」声を上げ、横に倒れこむ。
「ノクト、大丈夫か!」イグニスが駆け寄ってくる。
(ここで倒れるわけには行かない)
そう思って立ち上がりかけたノクティスはさらに焼け付くような激痛を右脇腹に感じた。ベヒーモスの角が彼の右脇腹をえぐっていた。ダークグレーのTシャツに血の染みが広がっていく。
「く……そ……」
ポーションをポケットから出そうとしたところ、ベヒーモスの前足の爪が、今度は彼の左腿に食い込み、そのままひっつかんで釣り上げられ、石垣に叩きつけられていた。
「ノクト!!」
(俺は死ぬのか……)
目の前に飛び散る自分の血を見ながら、ノクティスは最悪の結末を想像した。そこに容赦なく繰り出されるベヒーモスの鉤爪の攻撃。
その時、あの光る木に触ったあと、頭の中で聞こえた不思議な声に教えられていた呪文が蘇ってきた。
「デウス ディ トニトルス……」
肩に食い込むベヒーモスの爪の痛みと血の味を感じながら、ノクティスは必死の思いで唱えた。
「デウス ディ トニトルス ダ ミヒ ヴィム……!」
その時、あたりが薄暗くなった。稲妻のような光も見え、轟音も聞こえてくる。ノクティスはそれが、自分が重傷を負って、意識が朦朧としていることによる幻覚だと思った。

だが、仲間もその異変に気づいているのか「なんだ?」と口々に叫んでいる。
途端、巨大な手のようなものが現れ、ノクティスはそれに包み込まれるのを感じた。そして、包み込まれたあと、空に昇っていくのを感じた。
(やはり、俺は死ぬのか……)
薄れいく意識の中で、彼はこれまでとは比較にならないほどのとてつもない閃光が瞬くのを感じ、そして凄まじい轟音を聞いた。何が起こっているのか、はっきりとノクティスにはわからなかったが、自分を包み込んでいる巨大な手は、幼い頃抱え上げられた父親の膝の上を思い起こさせた。自分を守ってくれている、そう感じた。
もう、体の痛みは感じず、意識もそこで眠るように途切れた。

 闇に閉ざされていた視界が開けてきた。肌色の3つの物体が見え、輪郭がはっきりしたかと思うと、それが見慣れた仲間の顔になった。
「ノクト!」
「ノクト、気がついたか。」
「良かったー。」
みんな憔悴しきった顔だった。
「ベヒーモスは、どうなった?」
 すべてを思い出し、そう訪ねようと体を動かしかけた途端、全身に激痛が走った。
「寝てろ、かなりの重傷だ。脇腹と左腿の傷はだいぶ深くて縫合してもらったほどだ。あと肋骨3本と左鎖骨も折れているんだ。しっかり休め。」
 イグニスに制された。
ノクトは自分が、村の治療院のベッドに寝かされていることに気づいた。上半身は、かなり清潔な布で巻かれ、あちこち血が滲んでいた。足や腕には包帯が巻かれ、体には真っ白なシーツがかけられている。
「俺は、どのぐらい気を失っていたんだ?」と聞くと、
「丸4日だよ。あの巨大な老人から降ろされた時のノクトは血だらけでぐったりしててさ、もうダメかと思った。」
とプロンプトが涙声で言う。
「巨大な老人?」ノクティスは聞き返した。
 意識を失いかけながら自分があの呪文を唱えたあと、何が起こったのか、仲間が話してくれた。辺りは雷雲に覆われ、閃光が瞬いたかと思うと、山ほどもある巨大な老人の姿をした神が現れ、倒れているノクティスを手に包み込むように拾い上げた。次の瞬間、巨大な老神はもう片方の手で、手に持っている巨大な杖を地面に突き刺した。すると、太陽の一部が落ちてきたといっても良いほどの凄まじい雷が耳をつんざくような轟音と共に、地面に降り注いだ。あたりは焦土と化し、黒い骸と化したベヒーモスが横たわっていた。それを見届けるかのように、老神は意識のないノクティスをそっと草の上に横たえ、消えていったのだという。
「そうか……スモークアイは死んだんだな。」
ベッドに身を預け、そう呟きながらノクティスは意識を失う前のことを思い出していた。あの時、自分を包んでくれた巨大な手は、その老神のもので、あの時の轟音は、老神が落とした巨大な落雷だったのだ。ということは、あの光る木に触れた時、頭の中で聞こえた声は、その老神の声なのだろう。これからも、自分の命が危なくなった時、あの呪文を唱えれば老神は再び現れるだろうか。
「ベヒーモスの角は高値で売れる。修理費用をしっかりまかなえるだろう。」とイグニス。
「ほんと、ノクトが傷つきながら倒してくれたおかげでさ、シドニーに顔向けできるね!」プロンプトが涙声で言う。
「ん、胸張って支払え。」ノクティスは微笑みかけ、包帯が巻かれた手で優しくプロンプトの頬に触れた。プロンプトはそれを両手ですくい取るように包み込んだ。
「ノクトも早く良くなって!」
泣き顔のプロンプトをノクティスは目を細めながら見ていた。そして、そのまま再び眠りに落ちていった。今度は回復に向かう、健康的な眠りだった。
一行は、王子の眠りを妨げないようその場を去ることにした。イグニスが去り際に、あどけない表情で眠る王子の体にシーツをかけ直してやった。

「金額に変わりはないか?」
イグニスはコルニクス鉱油にいた。車の修理を依頼した女性整備士シドニーに修理代を用意したことを報告しに来ていたのだ。
「うん、あの額でいいよ。じゃ、あとは待ちに待ったこの子の納車だね。」
シドニーは修理したばかりの車を愛おしそうに撫でながら言う。
「ほら この通り準備できてるよ 修理は無事に終了 もうどこも悪いところはないはず」
「感謝する。」イグニスは答えた。
「えーっと……細かいところも整備しといたよ 費用 上乗せしたいとこだけど この辺はおまけ。ところで、王子様の具合どう?」
「意識は戻った。今はまた眠っている。大丈夫だ、あと1週間も休ませれば起きられるようになるだろう。あいつは、かなり強い。」
それを聞いて、シドニーはクスリと笑い、
「ほんと、大した生命力よね。あれだけの怪我を負ってたら、普通の人間ならとっくに死んでるわ。」
と感心したように言った。

3週間後、ノクティスの怪我は完治とは言えなかったが、縫い傷の抜糸も済み、ベッドから出て歩けるようになっていた。戦闘でボロボロになったジャケットとシャツとズボンも仕立て屋が元通りに直してくれた。怪我の治療代と服の仕立て代は、彼が国を追われた王子であるということと、森林を荒らすベヒーモスを撃破してくれたお礼として免除になった。ダスカ地方の村の人たちは親切だったが、これ以上お世話になることはできないと判断した一行は、ここを去ることにした。
そして、再びコルニクス鉱油。
「乗ってみて。」シドニーにそう言われ、一行は車に乗りこんだ。
「生き返ってる!」イグニスがエンジンを起動させると、プロンプトが感激したように言う。
「もし何かあったら連絡を。」
「次は修理じゃなく……な」
「うんいいよ うちの工場ならもっといろいろやれる 性能に不満を感じたら いつでもおいで」
「電話で相談もあり?」
「いいよ じいじも退屈してるから喜ぶ」
「今度はシドに手土産を持って伺うか」
「だな。」まだ腕に巻かれている包帯の下の瘡蓋がむず痒く、シドニーと仲間の会話を鵜呑みして聞いていたノクティスも口を開く。
そして、シドニーにほほ笑みかけ、
「じゃ 行くわ ありがとな シドニー」と言った。
「行ってらっしゃい。あんまり無茶して仲間に心配かけちゃダメよ、王子様。」
というシドニーの忠告をノクティスは軽く笑って受け止めた。
「わかってるって。」

そして、シドニーに見送られ一行は、直ったばかりの車を走らせ再び旅立っていった。シアンの空がどこまでも広がっていた。
15/04/09 18:36更新 / Maya

■作者メッセージ
FF15体験版に基づく作品です。
FF15の小説を書くのは初めてで、♀の自分が、男性ばかりの冒険物語を描くのはかなり恥ずかしいものがありましたがなんとか書けました。ラムウを召喚するときの呪文を始め、オリジナル部分もかなり入っております。
最後のシドニーとの会話部分なんかはそっくりそのまま使っており、手抜き感が拭えませんが、我慢してください。あとグラディオ兄さんが空気化しているので、兄さんのファンの方には申し訳ない・・・

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